無音の音楽映画

編集部員Rの印鑑

もう1年以上前になりますが「無音の音楽映画」を観たよ、というお話です。

九州大学の長津結一郎先生たちが企画し、福岡アジア美術館で開かれた映画『LISTEN リッスン』の上映会&監督トークイベントに参加しました。

この作品は耳の聞こえない聾者(ろう者)が「音楽」について語り、自ら「音楽」を奏でる全編無音のアート・ドキュメンタリー作品です。監督は牧原依里さんと雫境(DAKEI)さんというお二人。牧原さんは会社員と映画監督の二足のわらじ、雫境さんは舞踏家でもあります。どちらも聾者です。

数年前からひょんなきっかけで「障害」というものに興味津々の私。たまたま見かけた上映会のチラシを握りしめ上映会に向かいました。

それにしても「無音」の「音楽映画」
いいな、この、わけ分からなさ。

約2分の予告編。もちろん無音です。職場で再生しても安心。

当日少し遅れて来場したので、約120席キャパの会場はすでにほぼ満員。空席を探す私。

「ここ空いていますか?」と客席のご婦人に尋ねると、手話が返ってきました。

「おお・・そうか。そうだよな」と、手話がまったく分からないので一瞬ひるみましたが「その座席は後ほどやってくるお連れさんの為に確保している」ことがなんとなく分かりました。不思議なもんです。

空席を探すため、ふと周りを見渡して気がつきました。会場を飛び交う手話!手話!手話!

たぶん観客の7〜8割は聾者だったのではないでしょうか。それに気づいた途端、今日の自分は「アウェイ」「少数派」であることにハッとしました。

それにしても、皆さん楽しそうに会話しています、手話で。少し距離があっても見えれば通じるもんだから、私の頭上でも会話が飛び交います。

会場はもちろん静かなのですが、これだけたくさんの手話が飛び交うと、実に「騒がしい」のです。「静かなんだけど、騒がしい」初めて感じる不思議な騒がしさに、妙に感動しました。

上映前、希望する健常の人には耳栓が配られます。空調などの室内騒音も遮断して「ガチの無音」で観るための施策です。

映画は静かに無音で始まりました。

コンテンポラリー・ダンスのようにも見えます。舞踏のようにも見えます。楽しそうにも見えるときもあるし、悲しそうにも見えるときもあります。持ちうる「自分の固定概念」と「音楽とは?」という問いかけをすり合わせているうちに、約60分の上映は無音のまま終わりました。

二人の監督がスクリーン近くにいらっしゃるのが見えたので、エンドロールの途中で耳栓を外し上映が終わったところで私はいつもより大きな拍手を贈りました。

パチ、パチ、パチ。

拍手の音はまばらなんですが、また「騒がしさ」を感じてハッとしました。この時はじめて手話の「拍手」を知りました。会場は静かでしたが溢れんばかりの拍手に包まれていました。(「手話の拍手」で検索してみて下さい)

引き続き行われたお二人の監督との鼎談も大変興味深い内容でした。手話通訳や手話のリアルタイム文字起こしをしてくれたスタッフの皆さんに感謝です。後日、聞き手の中村美亜先生(九州大学)が纏められたレポートがこちらです。もしこの作品を観る機会があったら、合わせて読んで頂きたい内容です。

すわ、この頃『VR(ヴァーチャル・リアリティ)』の技術が一般にも広まり始めた時期で、私もいくつかのVR映像・作品を観ましたが、『ろう者と無音の音楽映画を観る』というリアルな体験の方が、感覚の拡張、驚きや新たな発見が多く、格段に心を動かされました。

また上映会が出来ないかなぁ、と思案中です。

 編集部員R